浅倉秋成先生の『教室が、ひとりになるまで』読みました。
なんともやるせない話ですが、切ない…胸が痛い…とかの以前に、これは犯人が100%悪いとしか思えず…。
今回はそんなところを書いていきたいなと思います。
物語の根幹部分に触れますので、未読の方はご遠慮ください
犯人の本当の動機
サイコパスから、納得のいく動機が提示されたように一見思えるが…
物語の終盤まで、ただただヤバイやつ、サイコパス、という印象しかなかった檀。
それが最後の最後に、自殺した小早川燈花との関係が明かされ、そうかあれは復讐だったのか、ヤバイやつじゃなかったんだな…と一瞬思わされますが、いや違くない??
人を殺すのはいけない、という当たり前の話とはちょっとズレた観点になってしまうのですが…
これ、復讐じゃなくて自分を守るための凶行じゃないか?
燈花が亡くなるまで
檀と燈花の間に何があったかは詳細に語られていないので、ここからは遺書の内容からの憶測です。
燈花の遺書を要約すると、「自分が優里を追い詰めていたことを知りました。だから死にます」なんですよね。
時系列に沿って書いていくと、
- クラスの良くない空気形成に加担している燈花(誰かに嫌な思いをさせるなどの不本意な出来事もあった?)
- 本当の自分とのギャップに苦しむ →が、自殺はしていない
- 何かがあり、自分の教室での行動が檀を苦しめていると知る →自殺する
もちろん、自殺の根底には、良くないクラスの空気とか、それに加担していた燈花の疲れがあるのは間違いありません。
ただ、遺書の内容では、燈花にとどめを刺したのは、自殺にまで追い込んだのは、あくまで檀だということになるんですよね。
檀のことがあって、何もかもが嫌になったという話なので。
もちろん、檀が燈花を悪意で害したわけではなく、これについては檀は悪くないでしょう。
そもそも、この遺書を檀が読んだのかすら不明ですが、もし読んでいたとしたら、自分が大切な友達を追い込んだ、という事実に対し檀はどうするでしょうか。
…自分の代わりに、「燈花を苦しめた根源」的な人物を仕立てあげ、そいつらのせいだ、自分のせいではない、と思い込もうとしたのではないでしょうか…?
殺された3人はただの巻き添え
もちろん、燈花といっしょにレク企画を立ち上げていた3人にも、悪いところはあったと思います。
(何の権利があって、みんなの放課後の大事な時間を拘束していたのかとか)
ただ、明らかに燈花をいじめていたとかでない以上、問題はそこではなくて、あくまで燈花の死は燈花自身の問題でしかないと思うんです。
思春期の慢性的な絶望というか…
クラスの強者のせいでもなく、もちろん檀のせいでもなく、話はそれだけで終わるはずだったのに、檀が妙な力を持っていたせいで悲劇が起きてしまった。
燈花を追い込んだのは自分ではない、ということにするため、「原因」となる人物を作って調律していった…ということではないかと思えて仕方ありません。
つまり、矛先さえあればなんでもよく、3人はこじつけで殺されただけ。
それこそ、声が大きかったから。
やはり檀は異常でしかない
って考えると、なんか物語はいい感じに締まっていましたが、いやいやこれ、普通にヤバイやつでしかないじゃないですか。
3人全員亡くなる瞬間まで一番近くにいて、身体に触れて、幻覚見せて、なんなら突き落として殺している。まともじゃないですよ…
この部分作中で全く触れられていないので、私の解釈違いでしかないのかもしれないけれど、
燈花との関係が明かされてなんか全部許す流れに持っていかれるのは、どーーーしても納得がいかなかったです。
3人それぞれ、ちゃんといいやつなのもやりきれない。
一番悪いのは疑いようもなく燈花
ただ、もちろん、今回の事件で一番悪いのは燈花です。それは間違いない。
まず自殺するのが駄目だし、大切な友達が気に病むような遺書を書いてはいけないし、そうやって追い詰めて混乱した友達にわけの分からない能力を与えたのも、もう何もかもが駄目。
燈花さえ生きていれば、ただ気づまりなだけの教室だったのに。
また、ちょっと穿った見方になりますが、あの遺書の内容自体もなんだかなーというか。
燈花が自殺した日に檀が欠席していたことを考えると、実際に何かの出来事があったのかなぁとは思いますが、あまりに話ができすぎているというか、美談っぽいというか。
本当の、もっと情けない、誰にも話したくない自殺の理由を隠すため、なんか良い感じで死ぬため、檀の話を持ち出している感じがしてならないんだよな。
そう考えると檀も被害者でかわいそう…。
燈花と檀の間にどんなボタンの掛け違いがあったのか知らないですが、自分のせいで燈花が自殺したと知ったときの檀の気持ちを考えると苦しい。
あれだけの凶行に及べたのも、檀自身まともな精神状態ではなかったからでしょう。
それに対し「お前は今日死んだんだ」とする垣内の言葉は、きっと今までの檀を切り離すという意味で効果的だったんだと思います。
目を覚ます、というか。
でも、仮にこの先普通に生きていって、誰かと出会ったり、例えば子供を持ったりしたとき、自分が殺した3人のことを考えずにいられるでしょうか。
いやぁ無理ですよ…。
檀がこの先どんな風に生きていくか分かりませんが、いつかきっちり自分の罪と向き合って、自分が何をしたのか、3人の未来を身勝手で奪ったというのがどういうことなのか、理解してほしいなと思います。
燈花はあの世でめちゃくちゃ反省してほしい…
おわりに
いやー面白くて一気読みでした。
檀の扱いは納得いかないのですが、最後にみんなで叫んで騒いでなんか押し切るみたいな流れはめちゃくちゃ好きでして(語彙力)、その点プールのシーンは熱かったなぁ。
ミステリーとしても、単純な出来事がうまく複雑に見せられていて、すんごく上手いなと思いました。
浅倉秋成先生はやっぱりいいなぁ。好きです。
同じ浅倉秋成先生の『六人の嘘つきな大学生』未読の方がいましたらぜひ読んでください…!最高です…