最初に確認ですが、未読の方来ていませんか?大丈夫ですか?
ここからネタバレしますよー!
というわけで、ネタバレ対策でタイトルではぼかしましたが、依田いつかと坂崎あすなは、一体!いつから!両想いだったのか、について熱く熱く語っていきたいと思います。

ラブコメ脳オタクの考察なので、恋愛面の掘り下げ興味ない方はご遠慮ください(^^;)
両想い根拠
まず、前提として、両想いと断定している根拠についてさくっと。
様々な描写がありますが、個人的にはこの1点ですね。
あすなが、「いつかと付き合わないのか?」と聞かれて否定していないこと。
クリスマスパーティーでの一幕です。
志緒から「依田いつかと付き合わないの?」と聞かれたあすなは、否定せず「なんで」と苦笑気味に聞き返しています。
地の文での否定もなし。
はいこれ、もう分かってるやつですよね~~!!
お互い両想いなのは把握してて、あとは告白するだけっていう、一番楽しいタイミングのやつですね。
他にもいろいろあるのですが、そこは後述するとして、とりあえず最終的には2人は両想いとして話を進めます。
両想いまでの過程
好きになったとき・好意を自覚したとき・相手からの好意を自覚したとき、の3段階で解説していきます。
恋に落ちた瞬間
いつか→あすな
まずは簡単ないつかの方から。
ここは作中で語られていますね。
中学時代、大怪我をして何もかもどうでも良くなっているいつかが、当時の彼女・桜井とあすなの口論を聞いたシーンです。
あんなことを言われたら、好きになってしまいそうだったけど。だけど、あの子は違うな。
辻村深月『名前探しの放課後』下巻 392~393ページ
そう、思った。
頭ではそう思ったけど、恋心は止められなかった、というわけですね~~。
可愛いやつ…。
正確に言うとこの時点では「恋」未満で「気になる」程度とも思いますが、
ここから、秀人に「本当に気になる人」を聞かれて「坂崎あすな」と答えるまで、ずーーっと、あすなのことが気になっていたんですね。
あえてこの言葉を使いますが純愛…!愛おしすぎる…!
(その間の彼の行動にいろいろ問題があるのは承知の上)
あすな→いつか
逆にあすなサイドははっきりと断定できず、ちょっと難しいところ。
ただ、好意を自覚する前、いつからいつかに想いを抱いていたのか、となると、たぶん大元はリハビリ中のいつかを見かけたところ。
リハビリ途中のいつかは、とてもかっこ悪かった。彼は一人きり、何度も何度も、同じことを繰り返し、その度に怒っていた。
あのかっこ悪さを、あすなはいいと思った。
辻村深月『名前探しの放課後』下巻 119~122ページ(途中省略)
ここで、ただの頭空っぽな陽キャじゃない、ということに気付いてギャップで落ちたのではないかなと個人的には思っています。
時系列がはっきりしませんが、仮にこれが桜井奈津美との口論の前であれば、話したこともないいつかのために、あすながはっきりと奈津美の思い上がりを否定したのも頷けます。
あんな風に頑張ってる人に、よく知らない人が「頑張って」なんて言えないよね。
なんといってもあすなは「面倒見の良い方ではない」ですからね。
芯がしっかりとあり気が強いところがあるとはいえ、目立つのが苦手なのも確か。
事情もよく知らない、大して印象も良くない同級生のために、そこまでするかなというのは疑問なところ。
とすると、あの口論の時点で、いつかに好印象を持っていた、と考えるのが自然かな、と。
ただ、このときは「恋」というよりは「依田いつか、推せる」みたいな感覚だとは思いますけどね。
ここの素地に、親しくなってからのいろいろが積み重なっていき、次第に「恋」になっていたという感じではないかと。
例えば水泳練習中のこのくだり、明らかにいつかの印象が変わってきていてきゅんとします。
それと、気付いた。口ではどうこう言いながら、河野に泳ぎを教えるいつかはきちんと優しい。できることを前提にせず、根気よく、彼と話をしている。
辻村深月『名前探しの放課後』上巻 426ページ
いつかがモテる、さらには元カノに執着されるのも、このへんの根が優しくて根本的に人たらしなところがあるからだろうなぁ。
恋心を自覚したとき
あすな→いつか
こちらはあすなの方が簡単ですね。
水泳特訓のシーンより…、
いつかが見ていてくれる、そう思うとほっとする。
辻村深月『名前探しの放課後』下巻 99ページ
悔しいし、認めたくないが、そうだった。
はい、こんなの恋です。まごうことなき恋です。
これをあの頑な真面目少女のあすなが言うんですよ?尊すぎる。
ここまで言って「この気持ちって何…?」なんてすっとぼけられるのは少女漫画だけです。
このくだりの直前に絢乃ちゃんと話しているのが興味深いですね。
今は坂崎さんと付き合ってるみたいだけど、でも、話だけはきちんとしたいの。(略)
辻村深月『名前探しの放課後』下巻 93~94ページ
「付き合ってないよ」(略)
「でも、好きでしょう」(略)
自分が彼を好きかどうかなんて考えたことがない。すぐに否定しようとしたところで、つけ加えられた彼女の声の内容にあすなはさらに驚いた。
「いつかは、坂崎さんのことが」
「依田くんが?」
それはない。あまりにも。
ここで、初めて「自分がいつかを好きであること」「いつかが自分を好きであること」を意識し始めて、「いつかが見ているとほっとする」に繋がるのかなと。
絢乃ちゃん、ええ子や…。
いつか→あすな
いつかの方は、どこで自覚したかはっきりさせるのが微妙なところ。
これに関しては、重要な点が結構あって、
①志緒からの呼び出し
②八木ちゃんとの会話
③クリスマスパーティーで河野との会話
④クリスマス後にあすながピアノを弾いていたとき
⑤危篤のおじいちゃんとの会話
①志緒からの呼び出し
水泳特訓期間中にいつかが志緒から呼び出されて、「あすなのこと半端な気持ちで好きならやめて」と言われ…のところです。
ここでいつかは特に否定せず(話はずらしてるけど)、「あすなに迷惑をかけないと約束した」なわけですから。
この時点で好意を自覚していた…と考えるのが妥当な気もしますが、若干弱いところ。
(ちなみに当時のいつか側の描写を見ると、絢乃ちゃん問題に抜本的対策をしているわけでもなく、本当に約束守る気があったのかは疑問ですが…強いて言えば天木に泣きついたくらい?)
②八木ちゃんとの会話
次は、水泳大会のときの八木ちーちゃんとの会話ですね。
「依田くん、あすなのことが好きなの? ねぇ、いつから?」
辻村深月『名前探しの放課後』下巻217ページ
あすなの心残りを聞き出すため、八木ちゃんにあすなのことを(おそらく根掘り葉掘り)聞いたことから、この発言に繋がります。
それに対し、いつかは「いや、違うけど」と、こう答えるしかなかったと、言っています。
こんなところで本音を話すはずもなく、ここはどちらかというと後半の地の文の方が重要かなと。
「こう答えるしかなかった」ということは、実際は違う、と考えて良さそう。
また、この水泳大会の日までに、いつかとあすなは2回衝突しています(河野池座り込み事件と福島弾丸旅行)。
これを経て、2人の距離感がちょっと違うような気がするんですよ。
泳ぎ切って、まずいつかの姿を探すあすな、そんなあすなに気負った様子もなく手を振り返すいつか。
それまでの「間に人ひとり優に座れそうな距離感」「河野がいないとバランスが悪い関係」ではなく、いつかとあすなの間が一対一で繋がっているように感じられます。
だから、この時点ではいつか側も自覚があった…とも思うんですよね。

余談ですが、おそらくカースト上位でない八木ちゃんに対し「あいつ面白い」とさらっと言えるいつか、心のきれいな陽キャで好き。
③クリスマスパーティーでの河野との会話
で、若干気になるのはクリスマスパーティーでの会話。
あすなのことを良いと言う河野に対し、いつかが明らかに慌てるというか牽制めいたことを言い始め、ぶっちゃけ作中一番かっこ悪い(笑)
あのモテ男依田いつかがこんな失態を犯すなんて、不意打ちの図星(=この時点ではまさか無自覚…?)と思わないでもないですが、初めての本気の恋で余裕がなかった、とここは温かく解釈しておきます。
河野とあすなは仲良いですからね、ちょっと焦るのも分かる。
④クリスマス後にあすながピアノを弾いていたとき
いつかがプール帰りにあすなの家の前を通ったとき、あすながもう披露する予定のないピアノの練習をしていて、圧倒された…のところ。
河野が言った「坂崎あすな、なんかいいよね」に自分の気持ちが近いと、このとき言語化します。
うーん、これはもう、自覚ありで良いでしょう!
このとき完全に落ちたとも言えそう。
⑤危篤のおじいちゃんとの会話
最後に、クライマックスの「あすなのことを好いてくれてるんだね」のくだりで、「はい」も重要なポイントですよね。
ここでしっかりと返事をしたときに自覚した…という解釈もなくはないと思いますが…。
まとめると
というわけで、①~⑤全部自覚あるようにもないようにも読めちゃうんですが、総合すると①で意識し、②③あたりでおぼろげに自覚し、④ではっきり認めた、というところかなと思っています。
次から書いていきますが、年末年始にお互い両想い認識があると推測される期間があるため、個人的には④までに双方自覚あり、の線を推します。
両想い寸前期間
ここからが個人的に最高なんですが…。
年末年始前後の2人、完全に両想いの自覚あってめちゃくちゃ楽しいやつですよね?
距離感が近い!!
まず根拠として挙げたいのが、一人で泳ぎに行った帰り、グリルさか咲の前でぼんやりしているいつかのもとにあすなが現れるシーン。
帰り道とは言え遠回りして同級生女子の家の前通って立ち止まってるって、ふつうに考えてストーカーなんですが(イケメンでも許されるか怪しいやつ)、そんな不審ないつかに対し、
「外、誰かいる気がして」
辻村深月『名前探しの放課後』下巻 358ページ
と特に驚いた様子もなく出てくるあすな。
完全に2人の世界じゃないですか…。最高か?
そして、薄着のいつかに自分のストールを貸してあげるあすな。
ここ重要。
洗濯したてのストールじゃないんですよ?今の今まで自分が使ってたやつを貸すんです。
いや、これ好きでもない男に絶対しないし、逆に好きな人はなかなかできない(後者は陽キャならさらっとやるかもだけど、あすなみたいな子は絶対しない)。
向こうからも好かれている、と分かっているから、こんな隙のある対応ができるんですよ。
いやもう推せる…!
からの、「塩素の匂いがするね」ですからね…。
きついにおいとは言え、真冬の屋外ではそこそこ近づかないと分からないですよ。
あすなの距離感バグってるの可愛すぎる…。めちゃくちゃドキドキします…。
いつかだって好きでもない子からストール渡されたら、正直狙いに来すぎてて対応に困るでしょうし(モテる男ですから、女子だからといって無条件に喜んだりしない)、この時点で「言わないけどお互い両想い」と分かっているのは確定でしょう。
年明けの2人の距離感
それ以降も、「お姉さんの子ども今日生まれるの?」と珍しく学校で自分からいつかに絡みに行くあすななんかも、このころに暗黙両想いなのを補強しています。
あとは、クライマックスのシーン。
あすなの手を引いて学校を出るところから始まり(映画のワンシーンか…!?)、泣きじゃくるあすなを抱きしめたり、震えるあすなの手を握ったり、どさくさに紛れていつかの接触が多すぎる…!
いつかの顔面で好きでもない子にこれやったらアウトですよ。犯罪です。
また、いくらいつかがモテる自覚があっても、誰に対して何をしても嫌がられないとは思っていないはず(そんな考え方をするのは三流モブ)。
だからこそ最初は人ひとり座れる距離感で会話してたり、意外とというか、モテるからこそというか、そのへんの感覚は敏い子だと思います。
そんないつかがなりふり構わず接触しに行くのは、相手から好かれている意識があるからこそ。
そんないつかに対し、病室までついてきてほしいと甘えるあすな。
矢印が完全に向かい合っていますね~~。
というわけで、2人は両想い、めでたしめでたし!

この楽しい楽しい暗黙両想い期間ですが、文章にすると野暮&話の盛り上がりを作りにくいので、意外とラブコメでは作例がなく…。一般文芸だからこそなせる技。最高。
おまけ)たぶんいつかの気持ちは周囲にバレバレ
ついでの余談ですが、たぶんいつかの気持ちは、あすな以外にはだだ漏れだったんじゃないかなと思います。
志緒や絢乃ちゃんが「いつかがあすなのことを好き」と断定しているのも、たぶん態度が分かりやすいんでしょうね(笑)
関係の遠い絢乃ちゃんまで、いつかがあすなを好きだと把握しているのも、もしかしたら付き合ってるときから「なんかよく見てる子がいるな…」と思ってたのかも…?
あと、たぶんあすなって自分で気づいてないだけでふつうに美人なんでしょうね…。
誰もいつかのお相手として疑問を持ってないので。
目のぱっちりしたアイドル顔ではなく、中学生男子には価値の分からない地味系美人って感じかな。
大学生くらいでモテ始めるタイプと見た。
「どうでもいいやつだった」とか言って好意バレバレないつか、天木たちは見ていて相当痒かったのではないでしょうか…。
天木がしっかりいつかの話を信じているのも(後半はフリじゃないと思う)、そのへんのガチ具合を感じたからかも。
おわりに
こんな欲望にまみれた考察を最後まで読んでくださり、ありがとうございます…!
いつかとあすなが正式に付き合ったら、学年の名物カップルになりそう。
そしてお互い意外なお相手ということで、双方の評判がちょっと上がりそう。
さらいは、いつかの女子評価がちょっとましになって天木の選挙戦に有利に働く…気がしないでもない。