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【ネタバレ感想】浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』

【ネタバレ感想】『六人の噓つきな大学生』 一般文芸
一般文芸
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浅倉秋成先生の『六人の嘘つきな大学生』を読みました!
めっっちゃくちゃ面白かったので、ネタバレに配慮しない感想を書いていきたいと思います!

えしゃ
えしゃ

ネタバレしまくってますので、未読の方はご遠慮ください!!

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感想!!!

みんないい人だった、というオチが何より好き!

『六人の噓つきな大学生』の何が素晴らしいって、不穏な空気をバンバン出して、中盤最悪の展開になってからの、まさかの全員良いやつオチ!
胸が熱くなりました。
逆パターンの作品が圧倒的に多いですからね。
この内容で書き切ったのは本当に素晴らしいなと。

綺麗事は大好きなので、この展開は正直好みど真ん中です!
人によってはこじつけとかご都合主義と思う方もいると思いますが…。

でも、そんな100%悪だけの人間ってそんなにいないと個人的には思うんですよね。
あいつは悪人、と断じてしまうのは簡単なこと。
そこから、「本当は悪人じゃないんじゃないか?」と疑いを持って、良いところを引き出した波多野の健全な精神が素晴らしいと思うんですよ。

この際、「さらに裏があってやっぱり悪人です」、でも良いと思うんです。
色んな面があって人間なので。
まぁ私は全員良いやつと思っていますが…!

えしゃ
えしゃ

こういう作品が人気の出る社会、なんか良いなーと思いました。

ミスリードが巧み

読者の思い込みを利用したミスリードが上手い!
この手の一般文芸は、人の嫌なところをさらけ出す内容が多いですし、しかもテーマが就活。
どろっどろの展開が待っていると予想されるので、私も簡単にミスリードに引っ掛かりました(笑)

終盤に至るまで、全然何の疑いも持たず「あーーこういう話ね…」と暗い気持ちで読んでいました。
私にとっては、「面白いけど好きではない話」という認識だったんです。
森久保くんに嶌さんが告発されるシーンは辛すぎて一度本を閉じました。
本当にストレートに騙されました(笑)

デキャンタ騒ぎのシーンも、意味のとれない台詞があったり、嶌さん関係で違和感はあったりしたものの、それ以上に嫌悪感がすごくて気付けなかったです。
いやー騙された!
ここまで来ると逆に爽快!

デキャンタ事件

これは不幸なすれ違いでしたね。
ネタが割れるとなんて楽しい幸せなシーンなんだ…

とは言え、さすがに少々無理がある気もしますが。

  • 九賀くんはここまでお酒に無知でいられるものなのか?
    • 2011年に就活ということは、2008年入学の2012卒
    • 平成ど真ん中で、まだアルハラ的な概念が浸透する前の時代ではないか?
    • 友達関係やサークルももちろんだが、ゼミの先生との飲み会はさすがに遠慮できないだろう…どう乗り切っていたのか…
    • 仮に自分が飲まなくてもお酒の席は避けられないだろう時代。多少の知識は溜まると思うのだが…
  • 嶌さんを好きな波多野くんが、アルハラ止めないのは変に思うのでは?
    • ネタバレされる前から、ここは変だと思った(序盤だったので、周囲の雰囲気に流されているのかと思いスルー)
  • 嶌さんがデキャンタ空けたのなら、全く酔っていなくて変だと思うのでは?
    • 同じく、普通に帰っているので変だと思った(このときは、結局飲まなかったのだと解釈してスルー)
  • 嶌さんの様子・飲みっぷりでアルコールかジュースかさすがに分かるのでは…
    • 読者には分からなくても、同席していて本当にこれらの点に気付かないものなのか…

こいつら駄目だという思い込み、さらに恐らくお酒の席自体への嫌悪感があったことから、全く疑いを持たなかったのかもしれませんが、さすがに気付くんじゃないかな?と思いました。

えしゃ
えしゃ

もし彼が遅れずに来ていたら、あの悲劇は避けられたのか…

タイトルが二重の意味で秀逸すぎる!

いやー本当に『六人の嘘つきな大学生』でしたね
タイトルが秀逸すぎる。

まず、読む前に嘘つきたちの騙し合いというイメージを刷り込む。
先入観は大事です。
いつ騙し合いが始まるのか、もうすでに始まっているのか、とハラハラしながら読んだのですっかり騙されましたよ…。

そんなミスリードの意味がありながら、全て読み終わるとタイトル通り。
本当はいいやつなのに自分をクズだと思っている嘘つきたちの話だったという…。
本を閉じたときにタイトルを見て涙が込み上げてきました。

二重の意味を持つ、スマートで素晴らしいタイトルだと思います。

就活生同士に評価させるのが一番、というのは一理ある

唯一本当にクズだった人事部長。
理解できない発言ばかりでしたが、「就活生・内定者同士は人事より先にヤバいやつが分かっている」というのは確かに、と思いました。

とはいえ、人の悪口を言えば自分の評価が下がるのは分かりきっていますから、人事にわざわざそんなことを告げる人はいません。
(何年か経って、その人が退職した後でやっと笑い話にできる程度では)

それで、本音を引き出すために「誰が相応しいかを選定する」試験としたのでしょうが、もう乱暴すぎる。
この短絡的な発想のせいで、上手くいっていたチームが必要のない粗探しをし合うことになってしまいました。
みんな内定に相応しい人物だったのに…。

こんな野蛮なことをしなくても、アンケートをとるなりなんなりで代用できたのではないかと思うのですが。
少なくとも、採用枠が一人であることは告げる必要がなかったように思います。
九賀くんという爆弾がなかったとしても、採用試験としてきちんと機能しなかったのではないかと。

波多野くんの人事部長への手紙をどう解釈するか

これは難しいですが、下げ要素のほぼなかった波多野くんに、最後に悪いところを出して、どんな人でも善い面と悪い面がある、ということなのかなと私は解釈しました。

そもそもこの手紙自体は、本当に出すつもりで書いたのではないと個人的には思っていますが。
この手紙を読んだ人事部長がどんな反応をするだろう?もしかしてやり直しになったり?と妄想して心のバランスをとるためのものだったのかな、と思っています。
やはり本音は犯人と嶌さんに宛てたメッセージが全てだったのではないかと。

嶌さんも本気度を感じなかったからこそ、すっきりした気持ちで手紙を読めたのではないかな、と思います。
ただ、嶌さんに鍵を託したロッカーの底に隠してあるのは意味深ですが。

ところで、そんなに高くないとはいえ使用料がかかるのに、転勤になって実家を出るときに解約しようとは思わなかったのでしょうか…。
年払いなのかもしれませんが、亡くなった後もそのままになっているのも気になる。

実は扱いの難しかった嶌さんの告発文

偶然公開されなかった嶌さんの告発文ですが、六人の中で一番扱いに困るものだったと思います。
親族が犯罪者ということなので、スピラリンクス側が知っていたらおそらく一発アウトだったのではないでしょうか。
普通の企業ならまだしも、名前の知れた企業ですから、スキャンダルの種は潰しておきたいだろうと予想されます。

一方で、評価していた学生たちからすると、これを受けて嶌さんの評価を下げることはできなかったのではないかと。
これだけ本人の悪事が出てきている中、兄弟の麻薬の話が出てきても、「そんなの嶌さん本人とは関係ないじゃないか!」という学生らしい正論で終わってしまう気がします。

この告発文が公開されてもなお、嶌さんが内定者に選ばれていた場合、スピラリンクスがどう対応したのかは気になります。

おわりに

最後まで読んでくださって、ありがとうございます!
久しぶりに心から面白いと思う作品に出会えてテンション上がり、たくさん語ってしまいました。
時間を置いてまた読みたいと思います!

プロフィール
えしゃ

えしゃ(@shallot0147)と申します!
・ラブコメ好き。少女漫画とラノベが大好きです!
・雑食&乱読
・好きなジャンル:ラブコメ、広義のミステリー、ローファンタジー、食べ物が美味しそうな話
・愛読書:辻村深月『名前探しの放課後』

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