<小市民>シリーズの最終巻たる『冬期限定ボンボンショコラ事件』が本当に発売されました…。
率直に申し上げて、これ以上はない、と思えるほど素晴らしい作品でした。
オタクの盲目感想ではなく!本当に!!
というわけで、ネタバレ感想書きます!
あれもこれも全部ネタバレしているので、未読の方は読まないでください。ただ…
もし、これを読まれているのが、久々の長編新作、しかも完結作ということで戸惑い躊躇われている方であれば、安心して読んで大丈夫ということだけ、お伝えします。
もう未読の方いませんか…!大丈夫ですね…?
感想!
個人的興醒めポイントが回避されていて嬉しかった!
さて、秋期の刊行からおよそ15年、正直後半10年は完全に諦めていた冬期がまさかの!ついに!刊行なわけですよ…。
最初に米澤先生の冬期匂わせを見た瞬間は心躍りましたが、だんだん不安になっていきました。
というのも、秋期があまりに完成度の高い傑作で、ここで本編完結と考えるのが良いのだろうなと思うようになっていたから。
米澤先生のことは信頼していますが、もし、万が一、自分の好みに合わない作品だった場合、私はそれを大好きな小市民シリーズの完結作として受け入れられるのか…。
というわけで、買ったはいいけど怖くて開けないくらいの感じだったのですが、まぁ、これ完全に杞憂でした。
「こうだったら嫌だな…」と思っていた点が的確に回避されていて、めちゃくちゃ嬉しかったです。
まずはそのあたりのことを。
中学時代の出来事が明かされたが
開いて最初に目次で不安が募ったのが、2人の中学時代に言及されるっぽいこと(実際、冬期の大半は中学時代の回想でした)。
小市民シリーズに関しては、過去を語らないところが美しいと思っていまして…。
もともと回想で尺を取る作品が好きではないこともあり、2人の過去に触れないところがとても気に入っていました。
というわけで、いまさら中学時代の話になっちゃうのか…!?ととてもとても不安だったのですが、読んでみたらあっさり受け入れられました。
まず、今の事件の解決のために行われている回想だった…ということ。
これが小鳩くんの内面的な何かこう…、センチメンタルで湿っぽい理由で、ミステリ的な意味なく行われる回想であれば、私は受け入れられなかったと思うのですが、もちろんそんなことにはなりませんでした。
また、臆病な読者なので、他人から見るとマイルドな失敗だったのもありがたかった。
小鳩くんと小佐内さんが、生き方を変えざるを得ないようなきっつい失敗をしたことは分かっていたので、
回想を読みながら、この話は最後に大失敗に至るんだ…、関係者に徹底的に罵られるんだ…と、胃を痛めていました。
端的に言うと、瓜野くんのような痛々しい結末を迎えるのではないかと恐れていたのです。
それは、読者としては全く読みたくない。
瓜野くんはどうでもいいですが、小鳩くんがそんなふうになるのは絶対見たくない。
しかし、そうはなりませんでした。
中学時代の小鳩くんはまだ幼くて、確かに怠慢もあったし、(今もそうだが)いまいち人の心が分かってないところがありましたが…。
読者がダメージを食らうような失敗ではなかった。と思って。
日坂くんの件、失敗というよりは、辛い仕打ちを受けた、という印象が強かったので。
そういえば小鳩くんは春期のときに言っていました。
「トラウマを三連発くらった」と。
瓜野くんのあれは一発KOですから、よく考えたら最初から全く性質が違ったんです。
あまりに秋期の印象が強くて、過剰な心配をしてしまっていました。
というわけで、予想外に回想が受け入れられて自分でびっくりしました。絶妙だなぁ。
ところで今回の出来事は、三連発の中の「人様の幻を破って泣かせただけ」にあたるのでしょうか
2人の未来が確定しなかった
話の流れで次にラストに触れてしまいますが、冬期を読む前に何より怖かったのは、2人の未来に何らかの結論が出てしまうこと。
秋期のラストで関係回復した2人ですが、その時点ではいっしょにいるのは高校の間だけと言っていました。
私も期間限定のコンビなのだと感じていました。
でも、読者としては、やはり2人には(読者視点で)永久にいっしょにいてほしいわけで…。
もし、冬期のラストで、「高校を卒業してから小佐内さんとは一度も会っていない」的なエピローグがあれば確実にダメージをくらうことでしょう。
かといって、2人の間に突然恋が燃え上がり「ずっと一緒にいようね!」と誓い合うのは、個人的に解釈違いで気味が悪いです。
そんなことは求めていない…。
(しかし最終回でそういう気の利かせ方をしてしまう作品は少なくない…)
とはいえ、完結を銘打っているのに、何も起きずに終わるのもおかしい。
これ一体どう落とすのか、と思っていたら、どれにもならなかった…!
本当に米澤先生推せる…分かってらっしゃる…。
ラスト、これだけのことがあっても何も変わらずもうすぐお別れだと思っている情緒のない小鳩くんに対し、「京都にきて」と言う小佐内さん。
これですよ…。
私が求めていたのはこれだ、と瞬時に思いました。
2人の未来は未確定で、恋が芽生えていたりはしないけれど、ただもう少しだけ一緒にいたいと思っている、いわば延長戦。
この余白のある終わり方…いや、最高ですね。
最高です。
春夏秋の型にこだわらなかった
また、これは興醒めポイントというほどではないのですが、外していて嬉しかったのは、春夏秋のパターンを踏襲しなかったこと。
春夏秋、それぞれ内容は全然違いますが、ざっくりまとめると、小佐内さんが企み、小鳩くんが察知し、健吾が走る、という流れは一致していました。
夏期・秋期に関しては、その上でさらに小佐内さんの企みを多重に見破る流れもあったので、漠然と冬期もそうなるのだろうなと思っていました。
全然そんなことなかった。
まず、小佐内さんは企まない。
犯人を前にしてチャンスが来たとき、叩きのめすのを躊躇いはしませんでしたが、今回小佐内さんは何もしていません…!
だから、小鳩くんも小佐内さんの企みを破ることはなく、結果健吾が走ることもなかった。
健吾は常識的な受験生ですから、高3の年末に大立ち回りするのはいささか不自然。
今回出番が少ないのは残念でしたが、個人的には自然な流れで納得でき、嬉しく思いました。
(小佐内さんは常識の外にいるので、受験生なのに…とかは思わない)
2人の相棒感
そして、今回個人的にすごくすごくすごく良かったのは、2人の相棒感!
今回小佐内さんが何も企まなかったので、小鳩くんと小佐内さんが初めて同じ方向を向いて共闘したわけですが。
これがね、も~~~最高でしたね…。
のっけから「ゆるさない(犯人を!)」でぐっときました。
そして「花に水をあげてください」で伝わる2人、最高すぎでは。
強いと強いで最強な感じがしました。
秋期で2人が(とんでもないところで)再会したときも「これこれこれ!」と思ったものですが、今回の再会も最高にクール。
語彙力の問題でこれ以上言葉にできないのですが、本当に、同じ方向を向いて、同じ目線で2人が会話していることの安心感と最強感がやばくて、終始ときめきしかありませんでした。
いつもヒリヒリと欺き合い暴き合いしてましたからね…(どういう主人公ペアなんだ)。
2人の解像度が上がった
また、嬉しかったのは、今回より深く2人を理解できたこと。
これまで、小鳩くんと小佐内さんについて、あまり共感できることが少なくて。
というよりなんて言えばいいのか…特殊な設定のキャラクターとして記号的にとらえていて、人間味をあまり感じられていなかったというか…。
うまく言葉にできないのですが、「小鳩くん」という生き物、「小佐内さん」という生き物、みたいなちょっと遠い感じ方をしていたところがありました。
それが、冬期でぐっと解像度が上がって、嬉しかったです。
小佐内さん
小佐内さんについて言うと、この話が本当に印象的だった。
「小学生のように小さいから、話すことが信用に足らないと思われる」
小佐内さんがちっちゃいネタを嫌がるのは、数多のキャラがそうであるように単なるフィクション上のお約束ととらえていたのですが、この話があるとかなり見え方が違ってきます。
見た目で判断されて侮られること、こんなに悔しく不愉快なことはないでしょう。
これは間違いなく小佐内さんの本音で、これを知って彼女をようやく身近に感じることができました。
話がズレますが、これを受けると、秋期で瓜野くんがあそこまでの仕打ちに遭ったのはキス未遂のせいではないんでしょうね、やはり。
あの子は世の中の全てを自分より下のものとしてとらえていて、
小佐内さんについても「世間が狭そうなタイプ」などと、あまりに的外れなフィルターをかけて見ていました。
言葉に出さなくても、そういうのって相手に伝わるもの。
まして相手が小佐内さんですから、感じ取っていなかったはずもありません。
甘い恋に落ちたいという気持ちで誤魔化していたものの、だんだん酷い目に遭わせてやりたい気持ちがのぞき始め、そんなときに千載一遇のチャンス、キス未遂が!
復讐の動機ができた、やったぁといったところだったのかなーと思います。
見た目で侮られることを不快に思っていた人が、瓜野くんみたいな人と付き合えるわけないんだよなぁ。
と、前作の理解も深まって嬉しかったり。
それにしても、この重大な発言を聞いた上で「お嬢ちゃん」と冗談を飛ばしたとすると、小鳩くんやっぱズレてるな…(笑)
下駄で蹴っ飛ばされても文句言えない。
小鳩くん
小鳩くんについては、先ほども少し触れましたが、中学時代の失敗がかなり私の思う方向と違っていて、なんというかこう…すごい、ですね。
すごい作品だなと思いました。
これまで、小鳩くんの解きたがりは、自己顕示欲からくるものと思っていました。
春期冒頭の夢で出てくるように、「さすが小鳩」と言われたいのだと。
また、多くの作品の探偵役がそうであるように、謎を解くこと自体が快感で、シンプルに楽しいから他人様の事情に首を突っ込んでいるのだと思っていました。
そして、小鳩くん本人もそういうふうに認識している。
だから、忌まわしい悪癖として、ただただ正さねばいけないと思っているのです。
でも、これに被害者側が違う解釈をつけてきました。
「自分のことを心配してやっていたのだ」と。
この言葉を受けて、小鳩くんが「日坂くんが喜ぶと思った」と一歩踏み込んだ本音を語ります。
これ…すごくびっくりしました。
ぐっときました。
だって、小鳩くんて常にふざけてる感じじゃないですか。
俯瞰して物事を見ていて。
本当に、本気の、誤魔化しようのない胸の内を明かしてくれたのって、これが初めてじゃないでしょうか。
小鳩くんの解きたがりは自己顕示欲や快楽もあるけど、根本には純粋な善意があって、自分のやり方では善意を受け取ってもらえないことに気付き、傷つき、小市民になることにした。
シリーズ通して読んできて、めちゃくちゃ納得のいく瞬間でした。
春期のときの「(知恵働きに)感謝してくれる人はもっと少ない」という言葉にも繋がりました。
小鳩くんにとって、ここが一番のポイントだったんですね。
要するに「お人好し」ってことだと思うんですが、今までそんなふうに思ったことないのに、そう言われると納得というか、全く違和感ないなと。
いや~~~~すごいんですよ、冬期。
2人の関係についてラブコメ脳で考える
さて、先ほど「2人の関係が確定しなくてよかった」と言った人間が申し訳ないのですが、今回の小佐内さん、ラブコメオタク的に大変大変良かったので、最後にその話を…。
まず、あの目端のきく小佐内さんが、鯛焼きを食べていたとはいえ、ぼうっと轢かれかけたっていうの、まずありえないと思っていて。
なんかあるんだろうと思っていたら、本当にぼうっと歩いていてびっくりしました。
これ…小鳩くんと一緒にいて気が緩んでいたとしか思えないのですが…。
ラブコメ的に言うと「安心しきっていた」ってやつ…。
私の感覚ではこれ超可愛いのですが、可愛いと言って大丈夫でしょうか、小佐内さん。
また、今回の一件、自分が轢かれかけて怖い思いをしたことではなく、小鳩くんを傷つけた犯人に復讐してやる、な小佐内さんがめちゃくちゃ好き。
ゆるさない(犯人を!)ですからね。最高ですね。
小鳩くんの意識が戻るまで生きた心地のしなかった小佐内さんも、再会した小鳩くんに率直に感謝を伝える小佐内さんも、小鳩くんは自分に危害を加えないと断言する小佐内さんも、めちゃくちゃ好きすぎて私はどうすればいいのか…。
そしてラストの小佐内さんですが、これは「次善」ではなく「最善」であることに気付いているんだと思うんだよなぁ。
ちょっと…いや、かなり変わった人なので、小佐内さんご所望の「恋」をする相手としては不適切だと思いますが、
これ以上自分を受け入れてくれて、小佐内さん自身も信頼できる人は、この先現れることはないでしょう。
というのは、2人が出会い頭でフィーリングが合っていた、っていう中学時代のエピソードからも強く思いました。
ただ、小鳩くんがかなり人の気持ちに疎い人なので、どうなるかは分かりませんが…(笑)
秋期までは、やべーのは小佐内さんだと思って読んでいたのですが、冬期を読むと、より世間とズレているのは小鳩くんという印象が強くなりました。
日坂くんの件もそうだし、小佐内さんに再会して、怪我を気にするのはともかく、鯛焼き気にしたり…(さすがの小佐内さんもあの状況で甘いもののことで怒らんだろう…)。
自分を雑に扱いがちなところがあるんだろうなぁ。
こういう人は横に誰かいないと駄目なので、ずーっと小佐内さんといっしょにいたらいいと思うんです。
ていうか小佐内さんが望めば、小鳩くんが逃げ切ることはできないはず…(笑)
こういう考察のようなものをこちゃこちゃと考えられるのも、公式に2人の未来が確定しなかったから。ありがたや。
おわりに
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
書く隙がなかったのですが、冒頭の小鳩くんが事故に遭うまでの描写、最高に小鳩くんで最高じゃないですか?
あらすじで車に轢かれることは分かっていたのに、車を認識した後、だらだらと煙に巻くような話が始まって、小佐内さんを突き飛ばすその瞬間まで、何言ってるのか全然分からなかった(笑)
本当に通常営業の小鳩くんで最高だなと、序盤からテンション上がりました。
そして当たり前に小佐内さんを助けるのかっこよすぎるし、それでいて小鳩くんの行動として違和感なく…。
シリーズ始まってから20年くらい経つのに、春期から通して読んでもキャラブレがないのがすごいな、とも改めて思います。
米澤先生、この作品を書いてくださって、本当にありがとうございました。
大好きです。