綾崎隼先生の『君と時計と噓の塔』がめちゃくちゃ面白かったので感想書きました!
別記事で解説もしていますので、興味のある方はぜひ。
感想&考察!
構成が神!
やっぱり、なんといってもこの構成が良いですよね~!
別記事でループ中の出来事を時系列順に整理してみて気付いたのですが、そのままの順番で読んでもそんなに面白くないんですよ…
それぞれの情報を出すタイミングとか、芹愛と雛美の回想のタイミングが最高に上手くて、めっちゃくちゃ面白いんですよね。
特に「塔の雨」ラストの、雛美の想い人が綜士だと分かるシーンが最高に痺れる。
流れが天才すぎて何回読んでも鳥肌。
そして、そんな「塔の雨」引きからの、前の周回の記憶を失った綜士の目線で続く「雨の雛」がもどかしくて…
いやほんとすごいなこれ??
ラブストーリーとして出来が良すぎる!
前置きとして、個人的に、人が死ぬ感動系の話、嫌な言い方をするとお涙頂戴系の話があまり好きではありません。
無理やり心揺らされる感じが苦手で…
そんなひねくれた私でも、ラストの雛美の回想はもう…やばかった。
あんな態度の雛美が、うちにこんなピュアで美しい恋心を秘めていたなんて、誰が想像できますか?
「嘘の塔」が始まったときは、綜士が陰気だし、泥棒事件もクズすぎてうへえとなりましたが、ほんっとうに最後まで読んでよかった…!
物語の開始時点からは想像できないほどの読後感の良さ。
「雛の嘘」17周目で、一気に雛美がヒロインに躍り出てびっくりしましたが、最後の回想まで読んで、むしろこれは雛美こそが主人公だったんだな、と思いました。
『君と時計と噓の塔』という作品は、鈴鹿雛美から杵城綜士への壮大なラブレターだったのだと…
読み返すたびに、綜士たちと合流してからも、ずっと一人で闘ってきた雛美の気持ちを考えて泣けてくる。
雛美が愛おしくてたまらないんです…!
結局芹愛は綜士をどう思っていたのか?
ここからちょっと考察ですが、まずは気になる芹愛の気持ち。
まず、あのクズ事件が起きるまでの芹愛は、綜士のことを好きだった、で良いでしょう。
本人は「憧れていた」という言葉を使っていますが…、そういった類の、まだ恋になる前の純粋な想いを持っていたのだと思います。
そして、泥棒に仕立てあげられたときは、これまでの感謝の気持ちから綜士をかばい、自分の気持ちに蓋をします。
芹愛の回想を読んでいても、泥棒にされたショックよりも、「好きな人からこんな仕打ちを受けるほど嫌われていた」ということが辛く、悲しく、みじめだったように感じます。
だから、綜士を好きだったということ自体を無かったことにしたのかな、と…。
シンプルに芹愛かわいそう。
その後の芹愛は、綜士が思っていたように、綜士を「憎んでいる」「嫌っている」かというとそうではないと思います。
どちらかというと、自分が綜士をどう思っているのかなんて考えたこともないのではないでしょうか。
芹愛からすれば、「私が綜士を嫌いなんじゃなくて、綜士が私を嫌いなんでしょ?」という話です。
綜士への冷たい態度は、芹愛が綜士を嫌いだからではなく、自分を嫌っている相手への対応として、同じくらいの温度感を返していたのかなーと…
芹愛自身の気持ちというより、起点が「綜士の芹愛への気持ち」な気がするんですよね。上手く言えないのですが…
芹愛にとって何より恐ろしいのは、杵城綜士にとって、織原芹愛が、今でもああいった仕打ちをするに値する人間であること。それを思い知らされること。
だから、これ以上傷つかないように綜士から目を逸らしてきた…ということなのかなと思います。
だから、綜士が真摯に5年前のことを謝罪したとき、芹愛はどの周回でもすんなりと受け入れています。
許す許さないというか…されたこと自体は許せないと思いますが、それ以上に、今綜士から憎しみを向けられていないことに安堵したのかな…と。
芹愛は綜士を好きなのか?
でもじゃあ芹愛が綜士を今でも好きなのかというと…
芹愛の回想で、綜士と一緒にいる雛美にイラっとしたり、他にも16周目で死ぬ前に「せっかく告白されたのに、忘れてしまうのはもったいない」といったセリフがあります。
これ少女漫画で言うと文句なしの脈ありムーブなんですが、この場合は、うーん…
後者に関しては、「自分も綜士が好きだから忘れたくない」という意味ではなくて、あくまで、今まで自分がとらわれていた、「綜士から嫌われている」という事実を払拭できたから、忘れてしまうのはもったいない…なのかなと。
「綜士から今は憎まれていない」ということを、次の周回の自分にも教えてあげたくて、あの伝言になったのかな、と思っています。
綜士のことを好きではないと頭で思う気持ちと、あんなことをされても、一度好きだった人を嫌いになりきれない感情を芹愛は抱えていたように思います。
タイムリープ中は杏奈のこともあり、間違いなく綜士は芹愛の「特別な人」でした。
芹愛も綜士と同じように、ただ対等に話せるような関係になりたいと、そう思っていたのかなと個人的には思います。
だから、結論として、今の芹愛は、綜士のことを好きではないと思います。
ただ、19周目の世界でも綜士がきちんと芹愛に謝って、今の芹愛を嫌っていないことを伝えれば、水に流して普通のお向かいさんにはなれるのではないでしょうか。
綜士の芹愛愛がヤバすぎる(褒めてます)
綜士の芹愛への想いの異常性が、一貫して同じペースでヤバくてすご…となります。
好きな人を追いかけて同じ高校に入った末にやることが、合法隠し撮りをだったり、冷たくあしらわれているのに、芹愛と話せただけで幸せになったり。
いやぁ…重い。こわい。
この重すぎる愛と、芹愛を死なせまいとする真っ直ぐな気持ちと、なんかけしてピュアではないのですが、必死な気持ちが伝わって、目が離せないんですよね…
個人的には、芹愛と和解できて憑き物の落ちた16周目・17周目あたりの、ちょっとポンコツな綜士が好きです。可愛い。
ただ、15周目で、初めて芹愛と連絡先を交換したことにテンション上がって、「芹愛の部屋の電気が消えたら「おやすみ」とメールすることもできる(もちろんやらないけど)」と考えるのは、さすがに発想がストーカーすぎてぞっとしました(笑)
綜士はいつから芹愛を好きだったのか
本文中では、綜士が芹愛を好きだと気付いたのは、あの事件の後、綜士と芹愛が一人ぼっちになってからとされています。
しかし、小学生のときの綜士も、芹愛をバッキバキに意識していたことは間違いないわけで、かなりやり過ぎではありますが、泥棒事件も好きな子いじめの一種だったのかな…と思わなくもないです。
好きな子いじめの理由としては、「好きな子の気を引こうとする」「自分の恋心が理解できず、対象への八つ当たり」の2パターンに分かれると個人的には思っています。
綜士の場合は完全に後者で、初めての恋に対して自分でも理解できず、理由は分からないけど芹愛がとにかく自分の視界に入ってくる。
もちろん、自分の地位を脅かされる恐怖もあり、それらがごっちゃになった結果、あのクズ行動に及んでしまったのかなと…
担任が、綜士を「ミスターパーフェクト」なんて呼ぶのも、重荷になって良くなかったと思います。
あと、けして弁護するわけではありませんが、父親が出て行ってからの綜士はちょっとまともな精神状態ではなかったのかな…とも。
ただ、恋心に気付き、自分の罪を悔いた時点で、芹愛にはきちんと謝るべきだったと思います。
芹愛からしたら思い出したくないこと、謝罪されたら許さなければいけなくなる…なども正論ではありますが、やはり芹愛のためにも、反省の気持ちは伝えるべきだったと。
綜士が早くにきちんと芹愛を話していれば、前述のように別に芹愛は綜士を恨んでいたわけではないので、意外とあっさりただの同級生に戻れていたかも。
そうしたら、あの悪夢のループももう少し早く終結できていたのではないかと思うんです。
杏奈こそ、綜士を好きではなかったのか?
これ作中で一切検討されていませんが、個人的に気になるポイント。
杏奈さんって綜士を好きなんじゃないの??
3つも年下とはいえ、昔何度も庇ってくれた男の子。
好きになってもおかしくないですよね。
そうでなければ、八津代祭の日に、綜士と話しただけでは自殺を回避できないのではないかと。
その日はなんとなく死ぬのをやめても、根本の原因はなくなっていないので、またいつか死にたくなると思うんです。
これはやはり、好きな人に感謝されたという事実が大きかったのではないかと思います。
また、17周目で綜士が芹愛への伝言を伝えたとき、暗号めいたやり取りをする2人に「楽しそうでいいな」と杏奈が言っていますが、これも深読みすると、そんなやり取りをするほど仲の良い2人が羨ましい、綜士と仲の良い芹愛が羨ましいとも…
考えすぎでしょうか?
リープで消えるのは「大切な順」ではないのでは
芹愛の自殺が懸念されていた周回で、継母である亜樹奈さんと芹愛の不仲が示唆されていました。
それもあり、9回目の芹愛のタイムリープで亜樹奈さんが消えたときも、「本当の家族ではないから9番目に消えた」感がありますが、本当にそうでしょうか。
個人的には、順番が遅かったことよりも、芹愛のタイムリープに巻き込まれていることに注目したいです。
つまり、亜樹奈さんは、間違いなく芹愛の「大切な人」なんです。
消失する人の定義については、「大切な人」「親しい人」「想いの矛先になりやすい人」…近いようで少し違う、色々な定義がなされていました。
そして、綜士が3回目のタイムリープをするとき、消えるのは強い想いを持つ「父親」と予想しましたが、結局その後に消えたのは千歳先輩と雛美。
その時点で父親より2人の方が大切だったというふうにも考えられますが、個人的には消失する順番は想いの強さとは少し違うように思います。
個人的な解釈としては、雛美が言っていた「身近な順に消えていく」が正解なのかなと。
大切な人、かつ、身近な順に消えていくということだと考えています。
そして、「身近」の定義としては、長い時間を共有している、というところだと思います。
高校生にとって、朝晩会うだけの家族より、日中一緒にいるクラスメイトの方が身近だというのは自然なこと。
だから綜士の場合は、クラスメイトの一騎が消えた後に同居家族である母が、芹愛はクラスメイト→部活関係者の順に消えてから、最後に同居家族の亜樹奈さんが消えたのではないかと思います。
そして、綜士にとって父親が大きな存在であることは間違いないですが、もう数年会っていない疎遠な関係であることも事実。
だから最後まで父親は消えなかったのではないかと思うんです。
16周目にもし芹愛がタイムリープしていたら…
残り時間の関係で、16周目に芹愛はタイムリープしていません。
もしここで芹愛がタイムリープしていたら、消えるのは誰だったのかな、なんて考えてしまいます。
16周目時点で芹愛は同居家族まで消していますから、これ以上大切な人はいないはず。
もしかすると、16周目でようやく関係を正常化できた綜士が消えていたのかも、なんて。
「芹愛は綜士の…」なんなのか
何回読んでもよく分からないのが、15周目で3人目のタイムリーパーを芹愛と予想する雛美の発言。
根拠を聞かれ、「芹愛は綜士の…」と言いかけてやめます。
これ、なんなんでしょう?
普通に考えれば「芹愛は綜士の好きな人」ですが、このメンバーでそれを言いよどむ必要ある…?って感じだし、タイムリーパーの根拠になるというのもよく分からん。
言い淀んだこと自体は、「綜士が芹愛を好き」と言いたくなかった乙女心ともとれますが…
綜士が芹愛を好きなのは、芹愛がタイムリーパーであることとは何の関係もないような…
もしくは、日本語的につながるのは「芹愛は綜士のことが好き」、とか?
これだったら、言い淀むことは分かります。
しかし、芹愛の気持ちは芹愛でもよく分かってないわけで、雛美が断定できるようなはっきりした気持ちではないし、それにやっぱりこれでも芹愛がタイムリーパーである理由としてピンとこない。
これなんなんだろうなー。
何か読み落としがあるのかも。
いつかパッと閃いて、解説できたらいいなーと思います。
なんか締まらなくてすみません…(笑)
おわりに
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
『君と時計と噓の塔』は何回も読みたくなる傑作です!!
好きな作品ことを思いっきり語れて嬉しかったです。