綾崎隼先生の『この銀盤を君と跳ぶ』読みました。
なんとも…なんとも熱い話でした。読み終わって動悸がやばい。
ということでネタバレ感想です。
事前にネタバレ踏んでも困らない類の話ではありますが、未読の方はご注意を~
感想!
話に入る前に私のスペックですが、フィギュアスケートの存在は知ってる、有名な選手の名前くらいは分かる、競技自体は見ない、4年に一度のオリンピックをTVで見るかどうか…(見ないかな…)くらいの、お世辞にもフィギュアファンとは言えないレベルの人間です。
(フィギュアに限らずスポーツ全般こういうレベルのインドア派です)
しかしフィギュア自体は華やかな競技。
ニュースで取り上げられることも多いので、それなりに基礎知識はあるぞ、と謎の自信をもって臨みました。
ざっくり感想
フィギュアってプロからすると「滑る」じゃなくて「跳ぶ」なのね~ふむふむ、と思いながら開いた『この銀盤を君と跳ぶ』。
なんか思ってたのと違う。
可愛い女の子が華麗に努力して優雅に氷上を舞う…なんていうストーリーを思い描いていましたが、問題児が大暴れする話でめちゃくちゃ面白かったです!
フィギュアってこういう競技だったのか
常々疑問に思っていたのですが…フィギュアってなんであんな跳ぶの?と。
1秒前まで優雅な演技をしていた選手が、急にきゅっと唇を引き結んで助走をつけてジャンプを跳ぶ。
うまくいけば拍手喝采。
という流れが謎で…だってジャンプ中は演技してないじゃないですか。
ジャンプしてるだけというか。
舞台とかは比較的好きなので、ジャンプが演技かどっちかにすれば…などとよく知らないなりに思っていたわけですが、そのへんの事情が超~~~丁寧に書かれていてめちゃくちゃ納得しました。
これだからお仕事小説は楽しいんだよなぁ。
さらには、ジャンプ偏重ルールのために、才能があるのにパッとしなかった元スケーターが主人公ときた。
いいね、これ…!
個人的に好みな流れで、ぐいぐい引き込まれてしまいました。
性格に難あり、でも憎めないヒロイン
さて、本作のヒロインの一人、瑠璃ちゃんの話を。
彼女、ま~~~癖の強いこと。
周囲の全てに嚙みつく取り扱い注意系女子で、性格に難のある子が多い綾崎ヒロインの中でもかなりの問題児ではないでしょうか…。
私もこの苛烈すぎる言動は苦手で、好きか嫌いかで言うと好きではない…。
この子の場合、お金持ちや有名人は人から無償の愛を注がれることがないと思っているのか、人から好かれることをはなから諦めちゃってるんですよね。
それがなんかもう…もったいないというか、もどかしいというか。
でも、「この子だるいな」と思いながら読んでいたはずなのに、両親が逮捕されて落ちぶれてしまうときに不思議とざまぁと思えないんです。
どうしてこんなことに…って普通に同情できちゃう。
強がっているのにここぞというときに泣かれるのも、私結構弱くて…。
これはずるい…!ってなりました(笑)
この絶妙なバランス感覚がすごいんですが、「好ましい人物ではない」「でも悪い人でもない」というすごいギリギリのラインを攻めているんです。
歳を重ねてもブレない性格のきつさが、最後の最後まで変わらなかったのがむしろ良かった。
もし瑠璃ちゃんが真人間になってしまったら、今までの言動が痛すぎて生きていけないと思う…。
制度になじまない系天才
そして語り手の一人である、瑠璃ちゃんと対になる朋香さん。
この朋香さんがめちゃくちゃいい。
ただの凡人と思いきや、実はルール上評価されにくい系の天才だったという。
学園ファンタジーでもよくありますが、こういう隠れ強キャラっていいですよね!
口の悪い瑠璃ちゃんが褒めることで、実力のガチっぷりがよく分かる。
表現者としての実力もさることながら、瑠璃ちゃんを正論で殴るところがすごく好き。
「人が離れたのはあなたが傲慢だからだよ」
それな。
さらには、お母さんが二度目の逮捕をされて精神崩壊しそうな瑠璃ちゃんに、「誰かあなたの将来を考えてアドバイスしてくれた人はいる? 答えなくていいよ、いないって分かってるから」と辛辣な言葉をかけるところが最高にクールだった。
揺るぎなく正しく、そして愛がある。
も~~綾崎女子本当に好き…!
一番いいとこ持って行ってる…
ところで、本作で一番いいところ持って行ったのは、もう一人のヒロインであるひばりちゃんの相方・泉美ちゃんですよね。
最高に推しているスケーターとペアで五輪を目指し、私生活では長年好きだった人の恋人になり。
ひばりちゃんと自分を比べて卑屈になる…みたいなジメジメした展開を予測していたので、思いがけずからっとしていてとても良かった。
綾崎作品は常識人がちゃんと順当に幸せになる傾向にあるのでとても良いと思う。
ただ構成が複雑
そんな感じで熱くて良かったのですが、現在の五輪選考の時間と、過去の時間を複雑に行ったり来たりするので、個人的にはちょっと読みにくかった。
続きが気になってすごいスピードで読んでいたので、頭の整理をしながら読むのがまどろっこしかったです。
毎回日付を明記するスタイルだとありがたかったかもなぁ。
語り手が2人いて2人の天才の話をしているのも複雑さを増しているのだけど、泉美ちゃんが敬語キャラなのはナイス!
地の文の書き出しで誰の話なのか分かるのはありがたい。
毎回冒頭で「私、○○は…(傍点付き)」と地の文で自己紹介する作品もあるけど、あんまりスマートじゃないよなぁと思うので、語り手のキャラ・口調が全然違うのはシンプルに良いな~と!
オチのアレはどうなんだ…
さて最後に、ラストの加茂選手の電撃引退、ちょっとどうなのかなって思っちゃいましたね…。
五輪がかかっていたからこその真剣勝負だったわけだし、それを目の当たりにしての引退決断なわけですが…
ひばりちゃんが負けてボロボロになったのがすごく良いと思ったんですよ。
今まで遊びでやってきて、それでも才能の差で勝てちゃってた子が、初めての本気の真剣勝負で負けて、絶望するっていう。
すごく意味のあるシーンなので、ここは読後感を捨ててもこのままバッドエンドとすべきだったような…。
ハッピーエンド好きなので、この読後感は素晴らしいと思うんですが、やはりちょっと…。
瑠璃ちゃんが五輪の舞台で跳ぶところを、ひばりちゃんとお母さんがテレビで観戦する、そんな穏やかなラストでも良かったのではないかと思いました。
おわりに
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
次のオリンピックのフィギュアは違った目線で見られそうです。(次って何年…?)