『亡霊の烏』を踏まえた、『ふゆきにおもう』(『烏百花 蛍の章』)の感想です。
ネタバレにご注意ください。
『亡霊の烏』まで読んで改めて問いたい、雪正は冬木に想われるだけの価値はあったのか??

『ふゆきにおもう』『亡霊の烏』のネタバレあります!
雪正は良い男だったのか?
似た名前の人が多いので、垂氷郷長一家の主要人物図を置いておきます!

雪正という人間
『亡霊の烏』を読むまでの雪正の印象は、ひたすら小物という感じでした。
第二部で出番がなかったこともあり、雪哉の少年時代の印象のままですね。
身の丈に合わない妻を得て、その息子のことをどう愛せばよいか分からないのだと。
ですが、『亡霊の烏』ラストでかなり印象が変わりました。
こいつ、自分が可愛いだけのどうしようもない人間だわ…。
「産ませるべきではなかった」にももちろんブチギレていますが、雪稚に全く言及しない様子にもかなり失望しました。
可愛い三男坊が、仲違いをしたまま凄絶な死に方をしたんですよ?
当然出てくる言葉は「梓! 雪稚!」であるべきと思われますが、書き方的におそらく「梓! 梓! 梓!!」なんでしょうね。
嫁のこと好きすぎか。褒めてません。
噛み合わなかった冬木の息子で、何考えてるか分からない雪哉に対する態度だけに問題があるのかと思っていましたが、さてはそもそも梓以外の人間どうでもいいな??
そう考えて読み返すと、『ふゆきにおもう』もまた違って見えてくるんですよ…。
不器用な青年の恋が、タイミングが嚙み合わずに不幸を生んだ。
そんな感じで読んでいたのですが、ちょっと待って、ちゃんと読むと雪正ろくでもなくないです??
雪正が冬木に見初められたときにやったことって、
- 本家の姫の部屋に鞠をぶちこんで謝る
- お詫びに蛍を連れてくる
1に関しては、悪いことしたのを謝っているだけなのでよく考えたら当たり前!
ひとつも良いことしてない!
その前に出てきた、失礼な中央貴族との比較でちょっと良く見えただけ、敵の敵は味方理論で親しみがわいただけ。
また、突然鞠が飛び込んできたときの恐怖による吊り橋効果的なものもあったでしょう…。
これ、そもそも冬木の気持ちが恋じゃないのでは…?
また、2に関しては、梓に気に入られたくて風流っぽいことしてみただけだな…?
好きな人の前でかっこつけるのも当たり前…。
「不器用で可愛いところもある青年」じゃないんじゃないか、これ…。
そしてこれ以降の雪正は冬木を軽んじ雪哉と向き合わず、全くいいとこなし。
これがすべて。
つまり、垂氷の雪正は、本家の姫に愛されるにはあまりに役者が足りない、モブである。
冬木は最後まで雪正を愛していたのか?
で、そんなことに聡明な冬木が気付かないわけないんじゃない?とも思うんです。
恋は盲目とはいえ、長く接していれば雪正はあまり好感を持てるタイプの人間ではないわけで、…いや好みは人それぞれなので、器が小さいところも可愛い!となったかもしれないですが…。
雪正が自分が思ったような人間ではなかったこと、全く自分を愛していないこと。
これらに気付けば、最後の最後まで雪正を好きってわけではなかったんじゃないかなーとか思ったり。
じゃあ『ふゆきにおもう』で本家に乱入してきたのはなんだったのかと言えば、
- 雪正だけ幸せになってイラっとした
- みんながまた自分を蚊帳の外に置くのでイラっとした
- シンプルに梓に会いたかった
このへんかな…?
個人的には二番目は特にありそう。
で、そこから先は侍女の言う通りなのかも。
雪馬があんまり可愛いので、自分も子どもが欲しくなって一芝居打ってみたと。
それも「自分も雪正の子どもが欲しくなって」ではなく、単にかわいい赤ちゃんを抱いてみたかったのかな、とか。
そして梓の想像通り、梓がいれば生まれた子を悪いようにしないと思っていたのでしょう。
雪哉は実母のことを愚かだと軽蔑しているけど、梓さんを信頼して雪哉を託した(だろう)ことだけは知っておいてほしかったな…。
梓は雪正を愛していたのか?
『亡霊の烏』の後に『ふゆきにおもう』を読んで、率直に、梓さんは雪正を愛していなかったのではないか、と思いました。
最初から最後まで。1ミリも。
冬木が横恋慕した感じで『亡霊の烏』ではまとめられていたけど、実際には裏で縁談が進んでいただけで(それも梓さんは知らなかったし)、2人は恋仲でもなんでもなかった。
雪正が梓さんを欲しがっただけ。
梓さんは側室になるよう言われて困惑していましたが、最終的には「冬木が望んでいる」という言葉を信じたから雪正の妻となった。
そこに雪正への気持ちはない…と思うんですが。
ただ冬木を想っているだけです。
それに加えて、「本当は冬木を正室にしたくなかった」という告白に対し、梓さんは「それを言って自分が喜ぶと思っているのか」と雪正を咎めています。
自分の大切な憧れの主を軽んじる男なんか、好きになるわけないよねぇ…。
改めて読むと、梓さんが大切にしているのは自分の子どもと冬木から預かった子どもだけで、雪正はなりゆきでいっしょにいるだけのような…雪正アンチの穿った見方すぎ?
ただ、もし「産ませるべきではなった」なんて言葉を梓さんが聞いていたら、また「私が喜ぶとでも思ったんですか!」としかり飛ばされていたのは間違いないと思う。
結局、雪正は最後まで梓という人間を理解しようとしなかった、愚か者である。
おわりに
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
闇堕ち博陸候をなんとかできるのは母上だけだと常々思っていたので、『亡霊の烏』での退場は残念でした…。
でも、梓さんが信じた雪哉を、私も最後まで信じようと…思います…!